パソナの淡路島への本社機能移転の将来予測

 なかなかの英断だとは思う。パソナの本社機能の淡路島移転のニュースを聞いたときの正直な感想である。いかにもオーナー企業特有のトップダウンでの決断だと思うが、しかし、おそらくこの本社機能移転はうまくいかない。2-3年後には、目指してはみたけれども、当初の想定ほどの移転規模にはならなかったという結果になるのだろうと、かなりの確信を持っている。

 その最も大きな理由は、市場原理を無視しているというものである。市場原理とは簡単に言えば、一人一人の個々人の選択の総和が、社会の流れを作っていく、ということだが、ニュースで伝えられた「東京一極集中の課題」とは、市場原理から導き出されたものではなく、特定の人たちの思想に過ぎない。なぜなら、東京一極集中とは個々人の選択の結果であり、東京に暮らし仕事をしている人たちは、決していやいや東京にいるわけではない。東京が住みやすく、仕事が充実しているからこそ、東京に多くの人たちが暮らしている、という事実を無視している。この個々人の意思による東京一極集中だという構造を、この話は全く理解していない。

 そう考えると、パソナが想定している経営企画や人事、情報システム部門などの1800人のうち7割、1200人を淡路島に移転し、将来は2000人超の規模を目指すという計画は、とても従業員の支持を得られるとは考えられない。今後、従業員の意思を確認して進めるということだが、希望者はおそらく想定の規模には到底到達できず、しかしトップが決めたことだから、ということで持ち回りでの淡路島への単身赴任を従業員間で押し付けあう、ということにもなりかねない。 (念のため、あの穏やかな瀬戸内海の夕日がきれいな淡路島を否定する気は全くないが) 東京に強烈な執着を持っている人にとっては、場合によっては淡路島に行くくらいなら転職する、という人が出てきてもおかしくない。

 それでも、関西地方在住者や、田舎で暮らしつつ東京のような仕事をしたいという、ごく少数の人材確保には成功して、一定の新しい働き方を提示することにはなると思う。しかし、それは本社の地方移転ではなく、地方在住の優秀な人材を地方拠点で採用し、ITを使って人材の流動性を高めるという全く別のコンセプトの話に「ピボッド」したに過ぎない。そのくらいの納め方ができるだけの優秀な人材はパソナにもいると思う。

 それにつけても、注意が必要なのは、このパソナの淡路島移転というトピックに飛びついて、アパートを建てる人が出てこないか、という点。キヤノンの工場撤退で大分県杵築市・日出町周辺のシングル賃貸市場が壊滅したように、一企業の需要に頼った賃貸市場形成は非常に大きなリスクをはらむ。願わくは2000人分の住居は、パソナ自身が投資してくれることを期待しよう。

 ちなみに、杵築市周辺のシングル物件の最安値は一時期4000円(月額!である。携帯電話代よりも安い!)くらいだったが、今は多少持ち直して1万円程度になっている。杵築市や日出町から別府市はクルマで30分ほどだが、その距離でも1万円の家賃に惹かれて引っ越してくる人はあまりいない。これがアメリカなら大量の社会移動が起きるのだと思うが、日本人はそれほどまでに住む場所を選ぶ。ここにも東京一極集中と同じ構造が見られる。人口の移動と集中は課題ではなく、個々人がそれぞれの幸せを追求した結果なのだ。

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