空き家問題の幻想

 空き家問題は相変わらず、社会の関心が高いようで、Googleニュースで「空き家」を検索すると大量のニュースが表示される。しかし、私は、「空き家問題は幻想に過ぎず、優先順位の高い社会課題とは言えない」という立場を取る。それは、自分自身の研究成果と不動産業界に身を置いている実感から、「そもそも問題にあるほどの空き家は(地方においてすら)存在せず」「大都市部ではむしろ世帯数の増加に対して、住宅供給が足りないため、極端に空き家率が低い地域すらある」と判断できるからである。

 なぜそのような結論に至ったかを簡単に説明すると以下の通り。
1)空き家問題の根拠となっている住宅土地統計調査は、調査員による目視調査となっており、実際は空き家でない建物を空き家と誤判断しているケースが非常に多いと考えられること。
2)住宅土地統計調査の市区町村ごとの建物数、空き家数・空き家率を経年比較してみると、東京23区内でも数値が大きく増減しており、個別地域では相当な調査誤差があることが強く示唆されていること。
3)自治体が実施している空き家実態調査、国交省が実施した空き家実態調査では、住宅土地統計調査の半数以下の空き家しか見つかっていないこと。
4)賃貸の業界団体である日本賃貸住宅管理協会の空き家率調査では、5%程度の空き家率しか報告されていないこと。
5)REITの報告書を見ると、2-3%程度の空室率しか報告されていないこと。
6)不動産ポータルサイトSUUMOの賃貸募集データと、全国の建物情報を網羅しているゼンリン建物ポイントデータを組み合わせた空き家率推計でも、5%程度の空き家率にしかならないこと。

 要は、様々なデータをつきあわせると、住宅土地統計調査の空き家率だけが突出して高く、他のデータでは、住宅土地統計調査の半数以下の空き家率が必ず報告されているということであり、住宅土地統計調査は、その調査方法が目視であるため調査誤差が大きく、空き家数が過大に集計されている、ということなのである。(また、正確な根拠のある情報ではなく又聞きの噂程度の話だが、住宅土地統計調査員の経験者から聞いた話として、指定された建物があるはずの住所に行くと、河川敷だったとか、建物そのものが無かったといったケースも多いらしい。しかし建物はあるはずだという前提で調査が設計されているので、無かったとは報告できず、空き家として報告しているというケースもあるらしい)

 そして、なぜ私が、数年にわたって空き家問題は幻想である、と主張しているかというと、存在しない(もしくは問題として小さい)社会問題に、大きな社会的資源を投入すること(空き家対策法を作り、自治体に空き家調査を行わせ、空き家等対策計画を作らせ、空き家バンクに予算が投入され、様々なワークショップや空き家対策活動が行われること)は、他の優先順位の高い社会課題の解決を遅らせるからである。
 例えば、母子家庭の子どもの所得・教育格差問題や、高齢賃貸住宅居住世帯の生活保護率の高さ(私の試算では優に30%を超える)など、ひとが死ぬことはほとんどない空き家問題よりも優先して取り組むべき社会課題はたくさんある。

 最近になってやっと「都市部では住宅が足りない」と指摘する人も現れるようになってきたが(例えば「空室ばかり」と言われる賃貸住宅の家賃が上がり続ける理由 沖有人:スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント)、そうした指摘はデッドストックになっている空き家が増えても市場には影響がない、というもので、空き家数自体に疑問を呈するものではない。
 私は、そもそも空き家が優先順位の高い社会課題だと言えるほど多くない、という主張を2014年ころから続けてきた。詳細は下記のリンクを参照してもらいたいが、なぜかいまだに私はイロモノ扱いされているようだ。一応、学位も取った研究者の端くれで、事実と意見を区別し、科学的に考えるようにトレーニングを積んできたつもりなんだが。どこかの出版社で「空き家問題の幻想」という本を書かせてくれないだろうか。

宗健(2014)「空き家率の推定と滅失権取引制度」リクルート住まい研究所ホームページ掲載(2014.7)

本当に空き家は800万戸もあるのか 総務省数値の一人歩きを疑う」ダイヤモンド・オンライン(2016.2)

宗健(2017)「住宅・土地統計調査空き家率の検証」日本建築学会計画系論文集82-737(2017.7)

住宅産業新聞連載 不動産市場の常識を疑う第2回「空き家問題の幻想」 (2018.11.29)

住宅新報連載 不動産市場異聞第1回「住宅・土地統計調査空き家率速報の解釈(上)」(2019.9.17)

住宅新報連載 不動産市場異聞 第2回「住宅・土地統計調査空き家率速報の解釈(下)」(2019.10.01)

住宅新報連載 不動産市場異聞 第7回「住宅は始末され始めている」(2019.12.10)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です